Vol.008 パソコンでのデジタルコンテンツの生きる道


1990年代後半以降、日本でもパソコンやインターネットの普及が進み、デジタル化の流れが加速するようになった。この流れに乗り、コンピュータ 性能の急速な向上やブロードバンドインターネットの普及とあいまって、オーディオコンテンツやビデオコンテンツをパソコンで取り扱う機会が急速に増加する ようになった。

しかし、コンテンツに限らず情報のデジタル化は、セキュリティ上の危険を増大させることと隣り合わせである。このため、デジタル化しようとしてもデ ジタル 化できない、もしくはデジタル化できても実用にならない、あるいは実用性に乏しいも のになったり、ハードウェアの障害に弱い(例:テレビ録画やソフトウェアのインス トール後にその機器が故障して部品交換が必要になった場合、処置内容によっては修理後に機器の機能が完全に回復しても、以前に録画やインストールしたもの を再び使用しようとしても違法コピーとみなされ、二度と再生できなかったり、ソフトウェアライセンスの再購入が必要になったりする場合がある)も のにならざるを得ない場合がある。

特に、オーディオやビデオなどのコンテンツにおいては、デジタル化を行うにあたり何の対策も施されなければ、いくらでもコピーされ放題、ネット配信され放 題になり、コンテンツの製作者がコンテンツに対して正当な報酬を得られないことになりかねず、結果として良質なコンテンツの安定供給に支障をきたすことに なる可能性がある。このためデジタルコンテンツには不正コピー防止対策が施されることが必要になり、現在ではほとんどのデジタルコンテンツにコピー防止対 策が施されている(音楽CDにも一時CCCDと呼ばれるパソコンでのコピー防止対策が施されていたが、互換性やポータブルプレーヤーのニーズとの整合性が 取れず、最近ではCCCDでの新規リリースが減少しているが、このようなケースは例外)。デジタル時代のコピー防止対策にあっては、著作権者の意図したコ ピー防止対策を確実に遂行するため、データの暗号化や暗号鍵が盗まれた場合の対策などが必要になってくる。しかしながら、このような対策はユーザー側の取 り扱いに重大な影響を及ぼすことになるので、ユーザーニーズを勘案しながら対策の内容を決定していくことになる。

市販等されているほぼ全ての映像コンテンツソフト(ブルーレイ・DVD・UMDビデオ・ネット配信など。本・CDなどに付随するものを含む。以下同様)には コピーガードが施されているほか、 2004/04/05から日本国内の全てのデジタル放送で録画を1回限りに制限する 仕組み(コピーワンス)が全面導入された。これにより、デジタル時代に流行りだした「ポータブルプレーヤーに転送しての楽しみ」が大きく制 約されるようになったり(できたとしても、転送の時点で「ムーブ」となり、転送元にあるコンテンツの該当部分が失われることになり(特に多 くの場合ハイビジョン画質やマルチチャンネル、データ放送ストリームなどが、ポータブルプレーヤーへの転送の結果、失われることになる)、ユーザー側の不 便・不満は大きいだろう)パソコンでのデジタル放送の可能性が大 幅に閉ざされることになった。とくに、パソコンの場合は、その動作原理上、「暗号が盗まれる」「(本来保護されるべきコンテンツにおいて) 暗号が解除されたコンテンツデータが盗まれる」等の恐れを完全に排除することが不可能なため(将来はパソコン等の性能がさらに向上すること が予想され、こうなると「暗号が盗まれる」等のリスクは一層高まることになる)、パソコンでの取り扱いは(特殊なハードウェア越しで、か つそのハードウェアをリモートコントロールしたり、そのハードウェアとパソコン内部のストレージとの間で暗号化された状態のコンテンツデータをバケツリ レーしたりする程度のものを除き)禁止されている。(パソコンについてもセキュリティ機能はハード・ソフトの両方で改善が進むでしょうが、「100%破ら れない」というレベルに達することはできないだろう。しかしながら、コンテンツホルダーたちは、コンテンツに関してのセキュリティ機能が「100%破られ ない」ことを要求するでしょうから、パソコンでのデジタル放送コンテンツの取り扱いの可能性は、将来登場するものをもってしても不可能か、あるいはセキュ リティ対策技術の進歩で可能になっても、実用性に乏しいものにならざるを得ないであろう。)そして、国の方針により、アナログテレビ放送は2011年7月24日で終了(ただし、東日本大震災で大きな被害を受けた地域では例外あり)することになっている。

(デジタルチューナーの普及状況を勘案して、2015年3月31日まではCATV業者を経由することで従来通りアナログチューナーでの放送受信が可能になったが、このような受信でもコピーワンスが課せられるため、デジタル放送用に特別にコピーガードを強化された設計の機種以外では受信できず、またコピーガードが強化された設計の機種でも外付けデジタルチューナー経由でデジタル放送を受信する場合と同様の録画制限となるため、「録画後のコンテンツの自由な取り扱い」という点では事実上無意味である。同様の理由で、視聴するだけの目的でもアナログチューナーのみのパソコンの場合はテレビやVHSビデオと違ってCATVをもってしても「受信機の延命」の目的では役に立たない場合があることになる)

以上のことから、パソコンで取り扱えるデジタルコンテンツは、(アナログ方式から変換する場合を含め)2011年7月25日以降は、大多数のユーザーにとっては「デジタルカメラ」「デジタルビデオカメラ」ぐらいにとどまるで しょう。これらの機器を利用して撮影することはできるものの、撮影対象が「エンターテインメントとして鑑賞する価値がある」ものになると、そのようなもの を個人ユーザーが記録(録音・録画・撮影など)する行為は、ほとんど全ての 場合において、主催者サイドで法律に基づき固く禁じられている(主として著作権・著作隣接権。人物の顔写真またはこれに類す るものが含まれる場合は、加えて肖像権。)。また、同等の効果が得られる行為の全て と、類似の効果が得られる行為のほとんどについても、禁じられている。違反 した場合は、記録に使われる(あるいは使われようとする)機器やメディア類が没収(または内容消去)されるほか、相当のペナルティが科せられることになる

特に、映画館で上映されている映像・音声については、「映画盗撮防止法」により、2007年8月30日以降、たとえ個人的な使用目的であっても、録画・録音行為が完全に違法になりました。違反した場合は最高懲役10年、罰金最大1000万円、または両罰もありうるという、大変厳しいものになっています。
(ただし、刑事罰に関しては、国内で最初に上映が開始されてから8ヶ月以内のコンテンツが対象。なお、これ以外のコンテンツの場合でも、当該コンテンツに対して著作権が存続する限り、「映画盗撮防止法」による民事的保護の努力義務の対象になる。)

*「同等の効果が得られる行為」=ある特定の目的に関して、実質的に完全に同じような効果が得られることになる行為を言う。(例:「第三者 への転売・譲渡行為」に対する「オークションサイトへの出品行為」)
*「類似の効果が得られる行為」=ある特定の目的に関して、同じとまではいかないものの、近いような効果が得られる行為を言う。(例:「撮影行為」に対す る「模写行為」)
*コンサート会場などでの不正な録画・録音・撮影行為を防ぐため、これらの行為を生じる恐れのある機器については入場時に主催者に預かり、終了時にお客様 に返却するようになっている。ただし、このような方法ではユーザーの所有する機器の紛失や他の人に持ち帰られる恐れがあるため、心配な方は会場付近にある コインロッカーなどの活用をお勧めする。

したがって、エンターテインメントとして鑑賞する価値があるようなデジタルコンテンツのうち、特にビデオコンテンツにあっては合法の範囲では2011年以降、ポータブルプレーヤーを含めた自由な取り扱いがほとんどできなくなる可能性が濃厚である。

地デジ機能がプレインストールされるメーカー製パソコンだけは

メーカー製パソコンの最近の機種(2006年7月現在。この節において以下同様)の中には、地デジ機能がプレインストールされている機種がある。メーカー 製パソコンの場合、自作パソコンなどと異なり、特定の機種専用に構成部品(マザーボードなど)が設計されている場合が多くなっている。このような性質を生 かして、メーカー製パソコンで、かつ地デジ機能がプレインストールされる場合に限っては、プレインストールの時点での部品構成が保たれる場合に限って、地 デジ機能の使用が許されるように設計されている。
しかし、自作・ショップブランドパソコンや、メーカー製を含め地デジ機能をプレインストールしていないパソコンの場合は、地デジ機能の対応可能性は依然と して完全に閉ざされたままだ。これは、パソコンの動作原理やオープンアーキテクチャであること自体がコンテンツの著作権保護に関して無力であるほか、コン テンツセキュリティに関しての脅威がますます増大する中では、汎用的な部品の組み合わせでコンテンツの著作権保護を完璧に行うには限りがある。特に、コン テンツセキュリティ技術はどんなに強化されてもクラックされる可能性があるほか、コンテンツデータの伝送経路のどこかで平文で流される箇所があると、これ をもとにコンテンツデータを盗み取るための裏技情報がアンダーグラウンドの世界(特にインターネット)で流通することになりかねず、このことが海賊版の販 売に悪用される可能性につながりかねない。これでは自作・ショップブランドPCのユーザーには申し訳ないことになるが、コンテンツ製作者が許さないであろ う。
しかし、技術革新により、単体チューナーでも汎用的な部品の組み合わせでコンテンツの著作権保護を完璧に行うことが可能になったため、このような制御を完璧に行えることを条件として、2008年4月下旬ごろから、パソコン用単体地デジチューナーの発売が開始された。



戻る


last updated: 2007/09/09 (2011/04/26 一部修正)